私は2月に中小企業診断士合格者の方に話を聞いたことをきっかけに、中小企業診断士を取ろうと決意しました。それも、ダラダラやっても仕様が無いので、1回で合格しようと計画し独学しました。中小企業診断士協会の公開している公式解答に基づくと、恐らく1次試験には合格していたようなので*1、後学になればと思い忘れないうちに自分の勉強過程をまとめておきます。
目次
(忙しい人のための)ポイント
- 参考書(テキスト・問題集・過去問集)はTACのみで十分。
- 問題集は最低3回は回すこと。ただし問題集は本番に比べて簡単すぎるので、問題集が全部解けるようになったからといって安心しない。
- 効率化を求めるなら、いきなり問題集を回しつつ、随時テキストを読み込むのが早い。ただし問題集には無いがテキストに書いてある事項が結構出題されているので、問題集やればOK、では決してない。
- 過去問は超重要。何度も言う、超重要!本番1.5か月前に着手できるように計画を組み、遅くとも1か月前に着手する。基本的に5年はやること。
1. 私はどう勉強するつもりだったか ~当初考えていたこと~
1.1 元々ある程度勉強の蓄積のあった科目
私には
- 元銀行員(で、ある程度金融全般を勉強していた)
- 証券アナリスト検定会員で、ポートフォリオ理論は現在の仕事で必要
- 証券アナリスト検定会員だが、経済学は殆ど忘れていた*2
- IT知識は業務で必要だったので、勉強期間早期に基本情報技術者試験を受ける予定だった
- もともと統計学は勉強しており、社会人になってから機械学習も触れてきた*3
という背景があります。また会社法はもともと銀行員時代に触りを調べたため、経営法務には抵抗感がありませんでした*4。これらとは対照的に、「運営管理」はキャリア上、ほとんど触れてこなかった分野だったため、力点を置くべきものだとは考えていました。
以上の認識から、各科目への力点の置き方について、以下のような想定をしていました:
1.2 利用したテキスト
ごく一部の例外を除き、TAC一色でした。勉強前の事前調査でTAC一筋だろうと判断しました。
テキスト、問題集および過去問題集を7科目分*5購入しました。
また
を買いました(後述するように、これは買わなくてよかったです。)。
1.3 勉強期間とスケジューリング
1.3.1 勉強期間
2023年4月1日~8月6日まで。ただし基本情報技術者試験の勉強も並行していた(4月1日~6月3日)ので、実質3か月を見込んでいました。1日当たりで平均2.5-3時間*6を勉強に充てて、大雑把かつ保守的に言えば、総勉強時間は300時間弱を想定していました。最終的にはここから大きく乖離しませんでした。
1.3.2 スケジューリング
仕事の関係で取りたかったのと、また経営情報システムへ波及するだろうとにらみ、当初から、基本情報技術者試験の受験を予定していました。その分時間を取られることを加味して、効率的な勉強をする必要がありました。そこで2月に資格取得を決意してから、1~2か月ほど予備校講師や合格者によるYouTubeやブログなどを閲覧して計画策定のための情報収集をし*7、4月から勉強を開始しました。
具体的には当初、
- テキストを1か月かけて読み込み、
- 問題集を3周くらい回し、
- 過去問を1か月ちょっと掛けて5年以上を3周しよう
と計画していました。ですが、計画通りは上手くいかないものです(後述)。
1.4 勉強量
(後述する大失敗を除けば)「①問題集をこなすこと」と「②過去問を回すこと」がやったことです。
1.4.2 過去問を解いた量
1.4.3 問題集の解き方
究極的には、全問が解けるようになることを目指して、とりあえず全科目3周することを目指しました*8。
ここで問題を解けるとは、「正解を選ぶと共に、間違った選択肢について何故間違っているかを正しく説明できること」を指します。正解を選ぶだけだと、答えを暗記することに終始することになり得、 ①問題を通じて知るべき知識自体は覚えられない ②少しひねられた類題に上手く答えられない ③誤答で述べられた事項が出題されたら答えられなくなるという弊害が起こる恐れがあります。なのでしっかりと問題を「解いて」下さい!
さて日々の勉強は以下のようなプロセスで進めました:
【1周目の場合】
- その日のノルマ分を解く。1題ずつ解いては解答と照らし合わせるという作業をします。このときは、とりあえず正解が選べればOKです。また特に「経営情報システム」や「経営法務」、「中小企業経営・中小企業政策」であればテキストや解説を読みながら解いても問題ありません。
- その日間違えた問題およびテキストや解説を読みながら解いた問題は、翌日のノルマ分に含めます(これをずっと繰り返すことで、すべての問題が一度は正解に達するようになります。)。
- 問題集を終えます。
【2周目以降の場合】
- その日のノルマ分を解く。このときは正解を答えるのみならず、誤答に対して何が誤っているのかを説明します。
- その日間違えた問題は翌日のノルマ分に含めます(1周目と同様。)。
- 問題集を終えます。
このとき重要なのは、その問題はいつ何周目を解いて、結果がどうだったのかを「正解=〇、正解だが当てずっぽうないし誤答を説明できなかった=△、誤答=×」といった形でメモしておくことです。これにより、本番直前など時間が少なくなってきたときに、優先して扱うべき問題の優先順位付けができるようになります。私はこんな形でExcelファイルに記録していました。
理想的には、本番の1.5か月前には問題集を3周終わらせるつもりでした。が、実際には2科目くらい、2周までで本番の1か月前を迎えてしまい、過去問演習と問題集演習を並行しました。
2. 私はどう勉強したか ~実際勉強してみての迷走~
計画と実際とは乖離するもので、勉強していると想定外の問題が起こりました。
2.1 無駄だったテキストの読解
計画策定当時、英語とフランス語の単語を暗記すべく、Ankiというアプリ(単語カード機能とその出題管理をしてくれる機能を持つアプリ)を使っていました。そこで本資格試験でもAnkiを用いた一問一答形式でテキスト内容を暗記しようと思っていました。ところが、これは大失敗でした。
Ankiは記憶曲線に従って、過去の正誤率を元にその問題の出題頻度を管理してくれる機能があります。これが中小企業診断士ではアダになりました。各科目において、扱う事項があまりにも多いため、毎回100題くらい解いても、過去に間違えたものが出題されるため、何日やっても新しい話題が全く出題されず先に進まなかったのです。そもそも問題集を扱うのは、特に出そうな話題に焦点を絞るということが1つの目的という側面がありますが、Ankiの利用はこれに矛盾していました。要は効率性を犠牲にしていました。これが無かったら、もっと問題集や過去問に時間を割くことができ、本番の点数も良かったかも…。
2.2 もっと過去問を勉強しておけばよかった
本来であれば1.5か月前に問題集を3周終わらせるつもりでしたが、1か月前になっても経済学や経営法務は2周しか終えられていませんでした。そこで止むなく過去問に移りましたが、結局5年分を3周解くどころか、2周できたのですら1科目しかありませんでした。正直言って、問題集と過去問には難易度に大きな隔たりがあります。特に企業経営理論と運営管理においてそのような傾向を顕著に感じました。そのため、問題集だけ解いて本番を迎えるのは無謀だと言えます。なので、余裕をもって過去問に着手できるように勉強して下さい。
なお解き方ですが、上述のように私は時間を守っての厳密な形でやる意味は無いと考え、問題集を解くような形で普通に解いていました。が、これはその人のスタイルでやればよいと思います。ただし問題集のときのように、厳しく採点し、解けなかった問題は何度も繰り返しましょう。
2.3 参考書はTAC一式でOK
TACだけで充分に合格できます。
他方ではじめから全科目揃えた方が良かったように思えます。実は当初、過去問題集は「①企業経営理論」、「②財務会計」、「③運営管理」および「④経済学」の4科目のみにするつもりでした。お金を節約したかったのと他の科目は過去問をやる必要はないだろうとの判断からでした。しかしいざ1年分の過去問を解いた結果、過去問の学習が全科目に必要だと痛感しました。最終的に、一定水準の点数を取れることが分かった「経営情報システム」は除き、経営法務と中小企業経営・中小企業政策もTACの過去問集を買いました。
他方で同友館の過去問題集は少し失敗したように思います。
TACの過去問と同友館の過去問を使ってみて良かった点と困った点をまとめてみます:
TACの良かった点・悪かった点
- (良) 正答率がA~Eと順位付けされており、解くべき問題の厳選が楽。
- (良) 直近5年分と収録年数が多い。
- (良) 書籍としてのレイアウトについて、問題部分と解答部分で頁を分けているため、後半の問題を解いている最中に前半の問題の答えが見えることが無い。
- (悪) 科目別になっていて持ち運びが不便。
- (悪) 科目別になっていて購入数によっては出費が多い。
同友館の良かった点・悪かった点
- (良) 各年度の講評が載っており、結構参考になる。
- (良) 書籍としてのレイアウトについて、恐らく本番に寄せている。フォントが似ているし、科目の掲載順番が本番の順番と一致。
- (悪) 古い過去問を取得するには時間がかかるため*10、直近期には古い過去問にアクセスしづらい。
- (悪) 書籍としてのレイアウトについて、問題部分と解答部分が頁を変えずに連続しており、後半の問題を解いている最中に前半の問題の解答が見える。
大学受験時代に迷走して参考書マニアになってしまったという失敗経験があったため、参考書選びは厳選することと浮気しないことを強く思っていたのですが、これはここでも重要でした。
2.4 科目ごとの想定外
2.4.1 実は伏兵だった「企業経営理論」
問題集は割とするすると進んだため、困らない科目だと感じていました。それが過去問を解いたところ一転しました。全然解けない。。70点ぐらいをメルクマールにしていましたが、最終的には60点に目標点数を下げました。それを大きく下回らず、良かったです…。
2.4.2 意外に放置できなかった「財務会計」
実は問題集を解く前に過去問を解いたところ、72点(令和2年の問題だったか…)だったので、割く時間をなるべく減らすつもりでいました。実際、財務指標関係やポートフォリオ理論などは簡単でした。しかし勘定関係(TACの問題集で言う後半部分)は知識が無かったため、全然分からない。。証券アナリスト試験でも今一つだった本支店会計もダメ。
もともと得点源にしたかったこともあり、分からない部分には結構時間を使いました。
2.4.3 やっぱりお荷物な「運営管理」
初見な知識が多すぎて、当初の見込みどおりお荷物でした。結局点数も良くありませんでした。ですが、もともと60点を目指していたため、ほぼ目論見通りになったように思います。
2.4.4 ただこなすだけの「経済学」
証券アナリストの経済学よりずっと簡単だと思いました。なので、ちゃんと覚えていれば粛々とこなせば得点できると思います。ただしちゃんと理解するのに時間が掛かることを考慮して勉強時間を確保して下さい。
2.4.5 思ったより勉強しなくて済んだ「経営情報システム」
基本情報技術者試験は「経営情報システム」には役立たないという議論をネット上でいくつか見たのですが、個人的には、基本情報技術者試験はシナジーがあるように思います。ただしいくつか留保すべき事項があります。
- 昔取った基本情報技術者試験はあまり役立たない 基本情報技術者試験は最近形式を大きく変え、また内容もリニューアルされています。特に、感覚ベースですが、5~10年前よりも難化していますし、扱う分野の力点が変わっています。そのため、当時の同試験を前提としていると、「経営情報システム」には役に立たないと感じるかもしれません。
- 「経営情報システム」と基本情報技術者試験では目的が違う 基本情報技術者試験は技術者、つまりITを作る側の試験と言えます。これに対し、「経営情報システム」はユーザ、すなわちITを使う側の試験です。そのため、聞かれる問題の視点および視座が相違します。実際、「経営情報システム」は機器の細かい規格、UMLやPMBOK、BABOKといった、実際に使うときに関わる知識や、ITのマネジメント面に関わる問題が聞かれる傾向があります。なので基本情報技術者試験でこうした分野が苦手であれば、相応に時間を掛けた方が良いと思います。
私の場合、過去問3年分で60点強~70点程度が取れたので、結局直近1ヶ月は全く勉強しませんでした*11。
2.4.6 知的財産が鬼門だった「経営法務」
もともと抵抗感は無かったため粛々と勉強していたのですが、知的財産関係の記憶が上手く進みませんでした。そのため、問題集をなるべく回すように努めました。ギリギリまで問題集と過去問を回すのは少し苦痛でした。
2.4.7 「中小企業経営・中小企業政策」も過去問は数年分解いた方が良い
「中小企業経営・中小企業政策」はその時々の状況に依存するため、解けても意味がない問題も多分にあります。そのため過去問を勉強する必要はないという極論も散見されます。しかし今感じているのは、
- 本番の時間配分感覚を養うために1回はちゃんと解いた方が良い
- 年を経ても変わらない部分が結構ある「中小企業政策」は数年分やった方が良い
というものです。暗記が出来なくなっていることもあり「中小企業政策」で点数を取らざるを得ないという個人的な背景があったため、過去問で「中小企業政策」を勉強した効果はあったように感じます。
3. まとめ
- 参考書(テキスト・問題集・過去問集)はTACのみで十分。
- 問題集は自分の得意・不得意、既存知識に留意して増減させても良いが、基本的に最低3周は回すこと。苦手分野、未知の分野は4周はした方が良い。
- 過去問は本番1.5か月前に着手できるように計画を組み、遅くとも1か月前に着手する。基本的に5年はやること。
補足:予備校と模試は必要か?
- 私は、個人的に合わないと考えたために予備校を利用することを考えませんでした。具体的には、 ①講義を受けるのが苦痛=自分のペースで勉強したい ②費用をそこまで掛けたくない ③テキストをざっと見た限り、人に聞く必要性を感じなかったという理由からでした。逆に言えば、人から教えてもらいたい、費用に余裕があるということであれば受講するのは良いと思います。同志を見つけやすいのは独学では得づらい大きなメリットでしょう*12。
- 模試は私は一切受けていません。勉強が間に合っていなかったので、受ける余裕がありませんでした。1年など長期スパンで勉強しており、解くものが少なくなってきたのであれば有用でしょう。他方で短期集中型であれば、過去問を解けば十分だと考えます。
*1:マークミスが無ければ…。
*3:分かるとは言い難い…
*4:知的財産関係には苦労しましたが。
*5:情報経営システムはTACの過去問を買っていません。
*6:休祝日をならしています。
*8:ただし、財務会計および経営情報システムは、やっている過程で既存知識で十分対応可能と判断し、2周(+α)で終えています。逆に運営管理、中小企業経営・中小企業政策は、過去問を解く過程で演習が不充分だと痛感し、4周目を勉強しています。
*9:「自分にとっては」これで良いと思ったという事を強調しておきます。大学受験や定期テストなどで時間が足らなくなるという経験が人生で1度くらいしか無かったのと、1日で複数科目勉強するのにその方法では集中力がもたないと考えた次第です。万人にこれが当てはまるとは言い難いです。
*10:同書は、3年前およびそれ以前の過去問をダウンロードする形式をとっており、そのためのPWは編集部にはがきを送る形式を取っています。
*11:その結果、過去問および本番のうち、本番が最も点数低く結構焦りましたが…。