統計学を真剣に学ぶ人のために、個人的にまとめているノートを公開する。
底本として
を用いる。
前回
2. 統計学のための確率論
2.6 その他の代表量:特性関数
2.6.1 歪度
確率変数Xが従う分布のr次中心モーメントをμrとする。基準化された3次モーメント
を歪度と呼ぶ。√β1=0ならば分布は対称である。√β1>0のとき分布が右に裾を引くといい、√β1<0のときは分布が左に裾を引くという。
2.6.2 尖度
基準化された4次モーメントを用いて
を尖度という*1 。尖度は分布の中心での尖り具合や裾の重さを表す指標である。
歪度と尖度の間には常に
が常に成り立つ。
(∵ μ=E[X]とおくとき、任意の実数x,y,z∈Rに対して
であるが、
とおけば、それは
と同値であり、Aは正定値対称行列である。したがって
を得る。両辺をで割ることで
となる。 )
2.6.3 Steinの等式
( 定義通りに計算するとこれはモーメントの計算に有用である。実数に対してを求めたいとする。このとき
に対してSteinの等式を適用すると
と次数を下げていくことができる。
2.7 独立性
確率空間を取り、に対してをその上で定義された次元確率ベクトルとする。
定義2.6 独立性 任意のに対して
となるとき、確率ベクトル族は独立であるという。
( 左辺について , 確率ベクトルの密度関数をとおけばFubiniの定理を逐次的に用いることで
逆に可測集合に対して定義関数を用いれば
となるから、任意の関数においては独立である。 )
また上記の定理を用いることで以下が成り立つ:
( の独立性を仮定すれば、上記命題より
が成り立つ。
逆に
が成立するならば、の分布の直積像測度をとすれば
となるが、これはに等しい。後に述べるように特性関数は分布を一意に定めるため、の分布はであり、これはが独立であることを意味する。 )
独立性の概念を拡張したものとして条件つき独立性の概念がある。3つの確率変数に関してそれらの条件付き周辺密度関数について
が成り立つとき、が与えられたときにが条件つき独立であるという。
2.8 確率1で成り立つことの意味
確率空間において根元事象に関する命題が
を満たすとき、ほとんど確実にが成り立つといい、
と書く。これはが偽になるような状況はあり得るものの、それが成立するような確率はであるということを意味している。
2.9 確率空間の完備化
確率空間において、となるような可測集合が存在しとなるようなを-零集合という。これに対してすべての-零集合をが含むような確率空間を完備確率空間という。
一般に確率空間が与えられたとき、-零集合全体の集合族を用いて
とを拡大することで確率空間を完備化することができる。
完備とは限らない一般の確率空間では、そこで定義された確率変数に対し、であるような写像は確率変数になるとは限らない。しかし完備確率空間ではそれが保障されるのである。
参考文献
- Lehmann, E.L., Casella, George(1998), "Theory of Point Estimation, Second Edition", (Springer)
- Lehmann, E.L., Romano, Joseph P.(2005), "Testing Statistical Hypotheses, Third Edition", (Springer)
- Sturges, Herbert A.,(1926) "The Choice of a Class Interval", (Journal of the American Statistical Association, Vol. 21, No. 153 (Mar., 1926)), pp. 65-66
- 上田拓治(2009)「44の例題で学ぶ統計的検定と推定の解き方」(オーム社)
- 大田春外(2000)「はじめよう位相空間」(日本評論社)
- 小西貞則(2010)「多変量解析入門――線形から非線形へ――」(岩波書店)
- 小西貞則,北川源四郎(2004)「シリーズ予測と発見の科学2 情報量基準」(朝倉書店)
- 小西貞則,越智義道,大森裕浩(2008)「シリーズ予測と発見の科学5 計算統計学の方法」(朝倉書店)
- 佐和隆光(1979)「統計ライブラリー 回帰分析」(朝倉書店)
- 清水泰隆(2019)「統計学への確率論,その先へ ―ゼロからの速度論的理解と漸近理論への架け橋」(内田老鶴圃)
- 鈴木 武, 山田 作太郎(1996)「数理統計学 基礎から学ぶデータ解析」(内田老鶴圃)
- 竹内啓・編代表(1989)「統計学辞典」(東洋経済新報社)
- 竹村彰通(1991)「現代数理統計学」(創文社)
- 竹村彰通(2020)「新装改訂版 現代数理統計学」(学術図書出版社)
- 東京大学教養学部統計学教室編(1991)「基礎統計学Ⅰ 基礎統計学」(東京大学出版会)
- 東京大学教養学部統計学教室編(1994)「基礎統計学Ⅱ 人文・社会科学の統計学」(東京大学出版会)
- 東京大学教養学部統計学教室編(1992)「基礎統計学Ⅲ 自然科学の統計学」(東京大学出版会)
- 豊田秀樹(2020)「瀕死の統計学を救え! ―有意性検定から「仮説が正しい確率」へ―」(朝倉書店)
- 永田靖(2003)「サンプルサイズの決め方」(朝倉書店)
- 柳川堯(2018)「P値 その正しい理解と適用」(近代科学社)
*1:3を加えるか否かは流儀によるが、本質的な意味は変わらない。