定番書
を基に線形代数を学び直していく。
今日のまとめ
- 次数行列を固有値に対する次Jordan細胞といい、で表す。
- Jordan細胞の特性行列を特性Jordan細胞という。
- 任意の正方行列はJordan細胞の並べ方を除いてただ1つのJordan行列に相似である。このをのJordan標準形という。
6. 単因子およびJordan標準形
6.1 単因子
変換公式 冪次数がの次-行列が
と表されるならば、
が成り立つ。同様に
と表されるならば、
が成り立つ。
の冪次数は次以下であり、
が成り立つ。数学的帰納法の仮定から
を得る。したがってでも成り立つ。に関しても同様に成立する。 )
が相似であるとき、を求める手順は下記のようになる。
まずは対等であるから、は有限回の基本変形によりに達する。そのうち右基本変形(列に関するもの)のみを取り出し、対応する基本行列をその順序に掛け合わせたものをとする。
ならば、
が求める行列である。
もしくは、左基本変形に対応する基本行列の逆行列をその順序に掛け合わせたものをとする。
ならば
が求める行列である。
たとえば
としてを求める。
特性行列を基本変形していくとであり、これらの単因子はともにであるから、は相似である。
であるから、
を得る。冪次数がであるからである。
6.2 Jordan標準形
以降、とする。次-行列および次-行列に対して
をの直和という。
さて次数行列
を固有値に対する次Jordan細胞といい、で表す。
さまざまな固有値に対する様々な次数のJordan細胞の直和をJordan行列という。
以降は、任意の複素行列がJordan細胞の並べ方を除いて一意的にJordan行列に相似であることを証明することを目標とする。
すでに示したとおり、の特性解がすべて相違するならば、はJordan行列
に相似である。
直和と標準形の対等性 必ずしも次数の等しくない標準形-行列を
とする。
- がで割り切れるならば、およびは共に標準形
- が共通因子を持たないならば、は標準形
2番目は、の最大公約数はであるから、
となる多項式が存在する。
をまず最初に示した式の形に変形し、右下の2次行列
に注目する。すると
が成り立つ。左辺の両側にある-行列は、行列式がであるため可逆である。したがって
が成り立つ。 )
6.2.1 特性Jordan細胞
Jordan細胞の特性行列
を特性Jordan細胞という。これは標準形
に対等である。
この事実を踏まえて次Jordan行列
の特性行列
の標準形を求める。
の相違する固有値とする。各に対するの特性Jordan細胞のうち、次数が最大であるものを取り、それらの直和をとする(ただしあるに対する最大次数の特性Jordan細胞が2つ以上ある場合、そのうちの1つを取る。)。
前述した定理の2つ目の命題から、の標準形は
の形で表される。
次に各に対する、次数が2番目に大きい特性Jordan細胞を取り、それらの直和をとする。ただし、あるに対する最大次数の特性Jordan細胞が2つ以上ある場合、に含めなかったもののうちから1つを取る。またあるに対する特性Jordan細胞が1つしかない場合、今度は取らない。同様に前述した定理の2番目の命題から、
の形である。の取り方により、はで割り切れる。
この操作をすべての特性Jordan細胞が漏れなく1回ずつ取り尽くされるまで続ければ、-行列の列が得られる。構成方法から明らかにはの直和に対等である。または標準形
に対等であり、はで割り切れる。したがっての標準形は
である。以上の結果などから、2つのJordan行列が相似であるのは、一方が他方のJordan細胞を並べ替えただけのものである場合に限る。
逆に個のでない多項式が与えられ、がで割り切れるならば、これを単因子とするJordan行列が、Jordan細胞の並べ方を除いてただ一つ存在する。
実際、とするとき、をの形の積に分解し、各に対応するJordan細胞すべての直和を作ればよい。
さて任意の次行列に対し、特性行列の-行列としての階数はであるから、以下が成り立つ:
Jordan標準形 任意の正方行列はJordan細胞の並べ方を除いてただ1つのJordan行列に相似である。このをのJordan標準形という。
行列が対角行列に相似であるためには、の特性行列の最後の単因子が相違する一次因数の積に分解されること(が重解をもたないこと)が必要十分である。