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深くわかる金融(その06):国債とは何ですか?

 今回は国債について取り扱います。

今日のまとめ

  • 発行者が資金調達のために発行する、一定期間予め定められた条件で利息を支払い一定期間後に予め定められた条件の元本返済を約束した債務証書であるような有価証券を債券という。債券発行は発行者にとって負債である。
  • 税金を担保として国家が資金調達手段として発行する債券を国債という。
  • 債券は満期までの期間の長さを考慮する必要があるため、価格に代わり利回りで投資対象としての良し悪しを判断することが多い。
  • 日本国債10年物の利回りは、長期金利指標として参照されるため、非常に重要である。

1. 債券

 発行者が資金調達のために発行する、一定期間予め定められた条件で利息を支払い一定期間後に予め定められた条件の元本返済を約束した債務証書であるような有価証券を債券という。この定義から債券は発行者にとって負債である。日本では債券価格は、額面100円当りの価格(単価)で価格を表示するのが普通である。
 利息(固定金利の場合、債券の額面に対する年率(%)にて記載されるのが普通)はお金を借りたことに対する手数料という側面があり、クーポンとも呼ばれる。また借りたお金自体を元本という。元本と利息を併せたものを元利金という。

1.1 債券の種類

 債券は様々な観点から分類できる。まず発行体別に債券を分類できる。

  1. 公共債

     各国政府が発行する「国債」、地方自治体が発行する「地方債」、当該政府・自治体関連機関が発行する「政府機関債」。
  2. 社債

     事業会社の発行する債券。
  3. その他

     金融債、住宅債など。

 また償還の優劣(お金が返済される優先順位)別でも分類できる。なおこれらとの対比で通常の債券を普通債という。

  1. シニア債(優先債)

     償還・デフォルト・発行体解体時にその発行体の他債権よりも優先的に利払・元本償還が行われる債券。優先支払がされる分信用リスクが低いため、他の債券よりも利回りは低く設定される。
  2. メザニン債

     償還、デフォルト、発行体解体時、シニア債・通常債権よりも劣後するもののエクイティよりは優先的に利払・元本償還が行なわれる債券。通常債権対比で信用リスクが高いため、利回りは高く設定される。
  3. 劣後債

     償還、デフォルト、発行体解体時、シニア債・通常債権・メザニン債よりも劣後するもののエクイティよりは優先的に利払・元本償還が行われる債券。債権の中でも相対的にエクイティに近い金融商品となる。利回りは一般にメザニン債よりも高い。

 利息(クーポン)の有無では、

  1. 割引債:クーポン支払の無い債券。
  2. 利付債(クーポン債):クーポン支払のある債券。

を指す。

 また社債は以下のように分類される:

  1. 事業債

     通常の社債:担保の有無で、普通社債、資産担保型社債に分類。
  2. 金融債

     長期信用銀行等が発行可能な債券。
  3. 転換社債型新株予約権付社債

     事前に定められた価格で新株へ転換可能な債券。
  4. 新株予約権社債

     事前に定められた価格で新株を購入可能な権利の付いた債券。
  5. 他社株転換債

     債券の発行者とは異なる企業株式に転換可能な債券。

 他には、発行国別や通貨によっても分類できる:

  • 国外債

     各国政府や機関、企業が日本国外で発行した債券。円建の場合、「円建外債」(サムライ債)、外貨建の場合、「外貨建外債」(ショーグン債)と呼ぶ。他には、たとえば人民元建で中国市場において発行された債券を「パンダ債」という。
  • 外債

     海外で海外政府・機関、外国企業が発行した債券。ユーロ市場で発行されるものを「ユーロ債」と呼ぶ。

 更には発行形態によっても分類できる:

  • 公募債

     不特定多数の投資家を対象に発行される債券。
  • 私募債

     特定少数の投資家を対象に発行される債券。

このような分類があることから分かるように、多様な債券が発行されている。
 また分類とは毛色が異なるが、デリバティブを組み込むことで通常とは異なるキャッシュフローをを生み出すように加工された債券を仕組債という。たとえば、

  • デュアル・カレンシー債

     クーポンは払込通貨で償還金は異なる通貨で支払われる債券。これは普通債と為替予約(償還額を発行時点での先物レートにより外貨転することを約束すること)を組み合わせた仕組債である。
  • リバース・デュアル債

     償還金は払込通貨でクーポンは異なる通貨で支払われる債券。これは普通債とクーポンに対する通貨スワップを組み合わせた仕組債である。

1.2 債券の取引市場

 債券市場は機能に応じて以下に分類される:

  • 発行市場:証券会社などを通じて新規に債券が発行される市場。
  • 流通市場:発行済の債券が交換される市場。

債券取引は、たとえ同一の発行体でも条件が相違する結果として銘柄が多いため、取引所での取引ではなく売買者同士の相対取引(OTC取引)が主流である。証券業者は、売買者のマッチングのために様々な業務を行なう。

1.3 債券の価格表示:利回り

 債券は満期までの期間の長さを考慮する必要があるため、現時点の債券価格を以て債券の価値を評価(特に比較)することは一概にはできない。また投資パフォーマンスは購入価格と投資期間の両方を考慮に入れる必要がある。そこで、投資期間の長さおよび購入価格や償還額(売却価格)、クーポンレートを考慮した上での年換算利率を用いて債券のパフォーマンスを評価する。この利率を利回りという(詳細な定義は後述する。)。

1.4 利回りの変動要因

  1. 需給関係:発行高、金融機関等の資金事情、個別銘柄の信用度、格付、流動性の高さ
  2. 裁定と期待:金融政策、短期金利外国為替、海外金利景気動向、物価の影響による裁定取引機会と市場動向の期待

 ・金融政策:オペによる短期金利の変動。
 ・為替と海外金利:外為市場動向により、国家間資金流通が変動。
 ・景気:景気上昇時、資金需要増加およびインフレ懸念から金利上昇の場合あり。
 ・物価:物価上昇懸念による金融政策変更の予想から、金利上昇方向へ。
 ・他資産動向:アセット・アロケーションによる債券価格変動あり。

2. 国債とは何ですか?

2.1 国債とは

 国債とは税金を担保として国家が資金調達手段として発行する債券を指す。恒久的な財源や歳入を担保とするために高い信用力を持ち、国債の利率水準が金利の経済的メルクマールとなってきた。例外はあるものの基本的には割引債または固定利付債である。
 現在では、国債の高い信用力と流動性を背景として、国債投資は
 (1) 国債投資家の資金運用手段(=国家の資金調達手段)、
であるのみならず、担保として国家以外の主体による資金調達手段
 (2) 現先取引や債券レポ取引、
として利用されており、国債は金融市場における重要なインフラとなっている

2.2 国債の種類

 国債は償還期間(満期までの長さ)に応じた呼称が存在する。日本国の場合、以下の呼称がある*1

  • 国庫短期証券

     短期の資金繰りを行なうために発行する割引債で、償還期間は2か月または3か月である。
  • 短期債

     国庫短期証券よりは長いが1年未満の償還期間を持つ割引債。償還期間は6か月または1年である。
  • 中期債

     償還期間が2,3,5年であるような利付債。3年債は個人向け国債のみ発行され、5年債は個人向け国債と双方がある。
  • 長期債

     償還期間が10年であるような利付債。個人向け10年債もあり、それは変動利付債である。また普通債に加え、物価連動債も発行されている。
  • 超長期債

     償還期間が15,20,30,40年であるような利付債。15年債は変動利付債。

現在発行されている利付国債には、利子額が一定の固定利付国債として2年、5年、10年、20年、30年、40年の期間のものが、利子額が変動する変動利付国債として15年の期間のものが、元金額と利子額が物価動向に連動して増減する物価連動国債として10年の期間のものがあります。このほか、購入が少額から可能で、一定期間経過後の中途換金も可能な「個人向け国債」として、3年(固定利付)、5年(同)、10年(変動利付)の期間のものがあります。

 また発行目的に応じて以下のような分類もできる*2

  • 歳入債(普通国債)

     様々な歳出需要を賄うための歳入を調達する目的で発行される国債で、新規財源債(当該年度の歳出を賄うために発行)と、借換債(国債の償還資金を調達するために発行)のほか、復興債(東日本大震災からの復興のために実施する施策に必要な財源を確保するために発行)がある。
  • 財政投融資特別会計国債(財投債)

     財政融資資金において運用の財源を調達するために発行される国債。財投債の発行収入は財政投融資特別会計の歳入の一部となる。
  • 繰延債

     財政資金の支出に代えて国債を発行することにより、その償還期日まで支出を繰り延べる目的で発行される国債。交付国債出資・拠出国債を含む。
  • 融通債

     短期国債のうち、国庫の日々の資金繰りを賄うための資金を調達する目的で発行されるもの。

2.3 国債発行の法的根拠

 国債を発行する根拠法には以下が存在する*3

・財政法
・特例公債法
国債整理基金特別会計
財政投融資資金特別会計

 まず建設国債の発行根拠となっているのが財政法第4条である*4

第四条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
② 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。
③ 第一項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。

また赤字国債の発行根拠となっているのが通称特例公債法(正式名称:財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律)である*5

第一条 この法律は、最近における国の財政収支が著しく不均衡な状況にあることに鑑み、経済・財政一体改革を推進しつつ、令和三年度から令和七年度までの間の財政運営に必要な財源の確保を図るため、これらの年度における公債の発行の特例に関する措置を定めるものとする。

 また元来、借換債の発行根拠となってきたのは、国債整理基金特別会計である。

第五条
政府ハ各年度ニ於ケル国債ノ整理又ハ償還ノ為必要ナル額ヲ限度トシ借換国債(当該年度内ニ償還スベキモノヲ含ム)ヲ起スコトヲ得
○2 前項ニ規定スル当該年度内ニ償還スベキ借換国債ノ募集金ハ国債整理基金特別会計ノ歳入外トシテ之ヲ国債整理基金編入スベシ
○3 国債整理基金ハ第一項ニ規定スル当該年度内ニ償還スベキ借換国債ノ償還ノ為国債整理基金特別会計ノ歳出外トシテ使用スルコトヲ得

現在は特別会計に関する法律第46条の下、発行されている*6

第四十六条 国債整理基金特別会計においては、各年度における国債の整理又は償還のために必要な金額を限度として、借換国債を発行することができる。
2 借換国債のうち当該年度内に償還すべき借換国債の発行収入金は、国債整理基金特別会計の歳入外として国債整理基金編入するものとする。
3 前項に規定する当該年度内に償還すべき借換国債を償還するために国債整理基金を使用する場合には、国債整理基金特別会計の歳出外として経理するものとする。


 他に財政融資資金特別会計法を根拠として財投債が発行されてきた*7

第六十四条 財政融資資金勘定において、借入金をし、又は公債を発行した場合には、当該借入金又は公債の発行収入金に相当する金額を、財政融資資金に繰り入れるものとする。
2 前項の借入金又は公債の償還金がある場合には、当該償還金に相当する金額を、財政融資資金から財政融資資金勘定の歳入に繰り入れるものとする。

2.4 60年償還ルール

 国債は10年債など償還までの期限が定められているものの、発行者である日本国から見たときには、必ずしも10年で返済しきっているとは言い難い側面がある。それは60年償還ルールが存在するからである。

 同ルールを端的に説明するとこうなる*8

新規に発行された国債(「新発債」と呼ばれます)が満期を迎えた際、一部については一般会計から国債整理基金特別会計に繰り入れられた資金等を原資として償還を行い、残りについては借換債の発行による借換を行うというプロセスを繰り返しつつ、60 年かけて一般会計から繰り入れられた資金等を用いることによって、「借換債」の発行によらないで返済を行う(「現金償還」と呼ばれます)こととしているルールです

なお同ルールの適用対象は建設国債特例国債である。

この60年償還ルールの導入背景については、大蔵省(当時)理財局国債課長としてこの実務を取り仕切った経験のある人物によるこのような記述がある*9

国債発行の健全性と信認の確保のため、任意の予算繰入れや従来からあった剰余金の2分の1繰入れに加えて、建設公債対象の社会資本の平均耐用年数と算定された60年間で建設公債を償還するよう、国債残高の1・6%(約60分の1)を毎年積み立てるという減債制度(定率繰入れ)が、昭和42年に導入された。国債の満期到来時に、積み立てられた1・6%×年数相当分を財源に、10年債なら60分の10を現金償還し、残り(60分の50)を借り換える。これを満期のつど繰り返し、結局60年で全額を現金償還する。この60年償還ルールは(積み立て財源も新たな特例公債に依存している今日では、無意味な事務負担とも思われるが)、現在までも忠実に守られている。

3. 国債の発行・流通

3.1 国債の発行方式

 国債の発行方式は、「国債ニ関スル法律」に基づき、財務大臣が発行方式を決定する。
(a) 市中発行:
 ・価格競争入札財務省が発行予定額および表面利率(クーポン率)を呈示、応募者が落札希望価格および落札希望総額を入札する方式。
  (1) コンベンショナル方式:落札者が各々提示した額が発行条件となる方式
  (2) ダッチ方式:落札者の応募価格の最低価格が一律で発行条件となる方式
 ・非競争入札:応募額の小さい参加者にも参加機会を提供することを目的とし、価格競争入札と同時に実施され、発行予定額の10%を限度額とし、価格競争入札の加重平均を発行額として入札する方式。
(b) 個人向け発行:
 ・個人向け国債:「変動10年」、「固定5年」、「固定3年」
 ・新窓販国債:「10年固定」、「5年固定」、「2年固定」

3.2 取引方法

3.2.1 取引所取引

 国債の場合、取引所取引が存在する。取引所よりも店頭取引の方が流通量が多いものの、他の取引に対して価格基準または指標を与える機能がある点で重要である。


図表1 国債の取引所における売買制度

売買立会時 12:30~14:00
売買単位 額面5万円
呼値の単位 額面100円につき1銭
呼値の種類 指値注文のみ
制限値幅 当取引所が定める値幅(1円)
売買立会の方法 売買システムによる売買以外の売買
売買契約締結の方法 個別競争売買*10
売買の種類及び決済期日 普通取引(原則として売買契約締結の日から起算して2日目(T+1))
決済方法 日本銀行国債振替決済制度による決済

出典:日本取引所グループ*11を基に作成

3.2.2 店頭取引

 証券取引所外の取引で、売り・買いの意思がある投資家がいる限り、すべての銘柄の債券が売買可能である。価格・譲渡日共に当事者間で合意できれば原則自由決定可能である。店頭取引の公正・円滑化、投資家保護の観点から、売買価格は日本証券業協会にて公正慣習規則が定められている。また売買価格の基準となる公社債店頭売買参考統計値が毎営業日に公表されている。

3.3 債券先物取引

 将来の一定期日に、現時点で取り決めた価格で特定債券を取引する先物契約を債券先物取引という。架空の「標準物」を取引対象とした先物取引であり、最終決済では受渡適格銘柄と呼ばれる「標準物」に類似した条件を持つ国債銘柄(具体的な銘柄は取引所が公開)を授受する。
 債券先物の発行には以下のような意義がある*12

  1. 低コストで金利変動リスクを回避する有効な手段を提供すること。
  2. 投機によって債券ディーラーによる十分な在庫の保有を可能とし流通市場を安定・拡大させること。
  3. 引受リスク回避手段として活用できることから、発行市場の安定と拡大に貢献すること。
  4. 将来価格に関する情報が提供されることにより、現物価格の予想形成の際に必要な情報の質が改善されること。
  5. 新たな投資手段として提供されることで、資産運用手段の多様化・取引の活発化に寄与すること。

3.4 債券現先取引

 売買の当事者間で、一定期間後に一定価格で債券を売買が逆の取引を行なうことを予め約束して履行する条件付き売買取引を債券現先取引という。
この取引は、債券の売り手にとって手許の債券を担保として資金を短期借入することに等しく、債券の買い手にとっては手許の余剰資金を債券を担保に取って短期運用することに等しい。


3.5 債券レポ取引

 空売りの際の受渡用などのために、現時点で債券を借り入れて将来時点に貸借料および借り入れた債券を返済する消費貸借取引を債券レポ取引という。債券の借り手にとっては目下の用途に借りた国債を利用できる。他方で債券の貸し手にとっては、貸借料と担保として渡した現金金利との差分を得ることができる。


3.6 ストリップス債

 新規発行(既存流通)の利付国債の元本部分および利息部分を(法的に)各々分離し独立して流通させて一つの債券と見なしたものをストリップス債(STRIPS: Separate Trading of Registered Interest and Principal Securities)という。過去に分離された元本部分および利息部分を再統合として元の国債を復元することも可能である。十分なストリップス債が市場に存在すれば、現存する債券から任意の期間の割引債を組成することができる。
 たとえば額面1億円半年利払クーポン利率5%の10年債から、額面500万円で満期がそれぞれ0.5, 1, …, 10年の割引債と額面1億円満期10年の割引債へと分離することができる。

4. 国債に関係する指標

4.1 国債が生じさせるキャッシュフロー

 国債を評価するのにはそれが生じさせるキャッシュフローを考慮することが必要だが、そこで必要となる各種情報を整理する。

(1) 利付債の場合

  • 額面:100円
  • 利率:1.6%
  • 利払間隔:半年利払
  • 償還年数:10年
  • 購入価格:99.80円

(2) 割引債の場合

  • 額面:100円
  • 償還年数1年
  • 購入価格:99.00円


4.2 利回りの定義

 以下、クーポン額は額面に対するクーポン額を意味する。

4.2.1 直接利回り(直利)

 債券価格に対する年間のクーポン収入の割合


\begin{aligned}
直接利回り= \displaystyle{\frac{クーポン額}{債券価格}}\times100
\end{aligned}

4.2.2 最終利回り(yield to maturity)

 債券を購入時点から償還時点(満期)まで保有した場合の年ベース収益率


\begin{aligned}
最終利回り=\displaystyle{\frac{クーポン額+\displaystyle{\frac{償還価格-債券価格}{残存期間(年)}}}{債券価格}}\times100
\end{aligned}

4.2.3 所有期間利回り

 債券を満期到来前に売却する場合の年ベース収益率


\begin{aligned}
所有期間利回り=\displaystyle{\frac{クーポン額+\displaystyle{\frac{売却価格-購入価格}{所有期間(年)}}}{購入価格}}\times100
\end{aligned}

4.2.4 最終利回り(複利)

 債券の購入時点から償還時点までの期間のクーポンを再投資する前提での年次収益率


\begin{aligned}
r\ s.t.\ P\left(1+\displaystyle{\frac{r}{100}}\right)^n=\left\{C\cdot \displaystyle{\frac{(1+\frac{r}{100})^n-1}{\frac{r}{100}}}\right\}+100
\end{aligned}

ここで

r :最終利回り(複利%)
P :債券価格
C :クーポン(%)
n :残存期間(年)
C\cdot \displaystyle{\frac{(1+\frac{r}{100})^n-1}{\frac{r}{100}}} :クーポンの将来価値

なお


\begin{aligned}
C\cdot \displaystyle{\frac{(1+\frac{r}{100})^n-1}{\frac{r}{100}}}=\displaystyle{\sum_{k=1}^{n}C\cdot\left(1+\frac{r}{100}\right)^{n-k}}
\end{aligned}

である。
 複利表示の最終利回りが分かれば、債券価格を逆算できる。


\begin{aligned}
P=\displaystyle{\frac{\left\{C\cdot \frac{\left(1+\frac{r}{100}\right)^n-1}{\frac{r}{100}}\right\}+100}{\left(1+\frac{r}{100}\right)^n}}
\end{aligned}

4.3 債券価格の状態

 額面100円に対する現在の市場価格の状況については名前が付いている:

  • オーバー・パー債(over par)

     債券価格が100円超のとき。これと同じだが、最終利回り\ltクーポンであるとき、「オーバー・パー(over par)」であるという。
  • パー債(par)

     債券価格が100円ちょうど。これと同じだが、最終利回り=クーポンであるとき、「パー(par)」であるという。
  • アンダー・パー債(under par)

     価格が100円未満のとき。これと同じだが、最終利回り\gtクーポンであるとき、「アンダー・パー(under par)」であるという。

4.4 デュレーション

 複利最終利回りの変化に対して、債券価格がどの程度変化するかを示す指標としてデュレーション(duration)がある。デュレーションは、キャッシュフローの受取時点を(加重平均により)加味した将来キャッシュフロー複利最終利回りを用いた際の、債券価格に対する現在価値で定義される。


\begin{aligned}
D=\displaystyle{\frac{1}{P_0}}\left\{
\displaystyle{\frac{\displaystyle{\frac{1}{n}\cdot C}}{\left(1+\displaystyle{\frac{r}{n}}\right)^{\displaystyle{\frac{}{}}}}}+
\displaystyle{\frac{\displaystyle{\frac{2}{n}\cdot C}}{\left(1+\displaystyle{\frac{2r}{n}}\right)^{\frac{n}{2}}}}+
\cdots+\displaystyle{\frac{\displaystyle{\frac{m}{n}\cdot (C+P)}}{\left(1+\displaystyle{\frac{mr}{n}}\right)^{\frac{n}{m}}}}
\right\}

\end{aligned}

n:利払数(年n回払)
C:クーポン(年率%)
m:満期(年)
P:元本額(円)
r複利最終利回り(%)
P_0:債券価格(円)

4.4.1 デュレーションから得る価格変動率

 デュレーションから価格変動率を計算することが出来る。パー債を考えると、


\begin{aligned}
P_0=\displaystyle{\frac{C}{\left(1+\displaystyle{\frac{r}{n}}\right)^{n}}+\frac{C}{\left(1+\displaystyle{\frac{2r}{n}}\right)^{\frac{n}{2}}}+\cdots+\frac{C+P}{\left(1+\displaystyle{\frac{mr}{n}}\right)^{\frac{n}{m}}}}
\end{aligned}

が成り立つ。両辺をrについて微分することで


\begin{aligned}
\displaystyle{\frac{\partial P_0}{\partial r}}&=-\displaystyle{\frac{\frac{1}{n}C}{\left(1+\displaystyle{\frac{r}{n}}\right)^{n-1}}-\frac{\frac{2}{n}C}{\left(1+\displaystyle{\frac{2r}{n}}\right)^{\frac{n}{2}-1}}-\cdots-\frac{\frac{m}{n}(C+P)}{\left(1+\displaystyle{\frac{mr}{n}}\right)^{\frac{n}{m}-1}}}\\
\therefore\ \displaystyle{\frac{dP_0}{P_0}}&=-\displaystyle{\frac{1}{1+r}}\displaystyle{\frac{1}{P_0}}\left\{\displaystyle{\frac{\frac{1}{n}C}{\left(1+\displaystyle{\frac{r}{n}}\right)^{n}}+\frac{\frac{2}{n}C}{\left(1+\displaystyle{\frac{2r}{n}}\right)^{\frac{n}{2}}}+\cdots+\frac{\frac{m}{n}(C+P)}{\left(1+\displaystyle{\frac{mr}{n}}\right)^{\frac{n}{m}}}} \right\}\cdot dr\\
&=-\displaystyle{\frac{1}{1+r}}\cdot D\cdot dr\\
&=-\tilde{D}\cdot dr\\
&\approx -D\cdot \displaystyle{\frac{複利最終利回り変化幅}{100+複利最終利回り}}
\end{aligned}

このように、複利最終利回りの変動に起因する債券価格変動はデュレーションに概ね比例する。この式を分かりやすくために定義した


\begin{aligned}
\tilde{D}=\displaystyle{\frac{1}{1+r}}\cdot D
\end{aligned}

を修正デュレーションという。

4.4.2 デュレーションの限界:コンヴェクシティの導入

 債券価格が利回りで何度でも微分可能と仮定すると、r=r_0の周りでTaylor展開することで


\begin{aligned}
P_0=&P_0(r_0)+\displaystyle{\frac{{P_0}^{(1)}(r_0)}{1!}}(r-r_0)^{}+\displaystyle{\frac{{P_0}^{(2)}(r_0)}{2!}}(r-r_0)^{2}+\cdots+\\
&\displaystyle{\frac{{P_0}^{(n-1)}(r_0)}{(n-1)!}}(r-r_0)^{n-1}+R_n(r)
\end{aligned}

が得られる。この式の両辺をrについて再度微分することで


\begin{aligned}
d{P_0}=&\displaystyle{\frac{{P_0}^{(1)}(r_0)}{1!}}dr+\displaystyle{\frac{{P_0}^{(2)}(r_0)}{1!}}(r-r_0)^{}+\cdots+\displaystyle{\frac{{P_0}^{(n-1)}(r_0)}{(n-2)!}}(r-r_0)^{n-2}+\cdots
\end{aligned}

となり、ここにデュレーションと価格変化率の関係式を代入することで


\begin{aligned}
d{P_0}=-\displaystyle{\frac{D}{1+r}}P_{0}dr+\displaystyle{\frac{{P_0}^{(2)}(r_0)}{1!}}(r-r_0)^{}dr+\cdots+\displaystyle{\frac{{P_0}^{(n-1)}(r_0)}{(n-2)!}}(r-r_0)^{n-2}dr+\cdots
\end{aligned}

である。
 r\rightarrow r+dr,\ r_0\rightarrow rと置き換えれば


\begin{aligned}
d{P_0}&=-\displaystyle{\frac{D}{1+r}}P_{0}dr+\displaystyle{\frac{{P_0}^{(2)}(r)}{1!}}(dr)^{2}+\cdots+\\
\therefore\ \displaystyle{\frac{d{P_0}}{P_0}}&=-\displaystyle{\frac{D}{1+r}}dr+\displaystyle{\frac{{P_0}^{(2)}(r)}{P_0}}(dr)^{2}+\cdots
\end{aligned}

が成り立つ。これは、金利変動drが大きい場合には上式の第2項が相応に大きくなるために、デュレーションのみでは近似誤差が大きくなることを意味する。
 そこで誤差を修正するために、新たな概念としてコンヴェクシティCVを定義する。


\begin{aligned}
CV=\displaystyle{\frac{{P_0}^{(2)}(r)}{P_0}}=\displaystyle{\frac{\displaystyle{\frac{100(T+T^2)}{(1+r)^T}}+\sum_{t=1}^{T}\displaystyle{\frac{C(t+t^2)}{(1+r)^{t}}} }{P_{0}}}
\end{aligned}

これを用いれば、


\begin{aligned}
\displaystyle{\frac{d{P_0}}{P_0}}\approx -\displaystyle{\frac{D}{1+r}}dr+\displaystyle{\frac{CV}{(1+r)^2}} (dr)^{2}
\end{aligned}

と債券価格変動率をデュレーションのみを用いて近似するよりも精度よく近似することが出来る。

4.5 イールド・カーブ

 ある金利商品について横軸に年限(満期までの期間)、縦軸に利回りをとったグラフをイールド・カーブという。ある時点の市況(利回り)に応じてイールド・カーブは引かれるため、時々刻々と形状が変化する。ただし、実際には有限時点の年限の利回りしか観測できないため、観測した利回りを基に特定のロジックで補間・補外してイールド・カーブを引く。
 狭義には、市場で観測した債券価格やパーレートなどの利回りから計算したスポット・レート(ゼロクーポン・レート)を補間・補外して引く。補間方法は、(3次)スプライン補間や線形補間が用いられる(特に前者が用いられがちである。)。

5. 国債利回りの動向

 日本国債10年物の利回りは、長期金利指標として参照されるため、非常に重要である。

5.1 外部動向との関係性

5.1.1 景気変動

 市場が好況を予想するときには、資金需要増加/消費増加に伴い、金利は上昇する傾向にある。逆に市場が不況を予想するときには、資金需要減少/消費低下に伴い、金利は下落する傾向にある。

5.1.2 物価動向

 物価予想が上昇する場合、買い溜めによる資金需要増加に伴い、金利は上昇する傾向にある。物価予想が下落する場合、買い惜しみによる資金需要減少に伴い金利は下落する傾向にある。

5.1.3 需給要因

 金融政策として政策金利の変更や市場での債券売買が生じ得る。一般的に、金融引締が生じれば金利上昇、金融緩和がなされれば金利は下落する傾向にある。

5.1.4  株式市場との相関

 一般的に、株価上昇局面では利回りは上昇する(=債券価格が下落する)傾向にある。株価下落局面では利回りは下落する(=債券価格が上昇する)傾向にある。株式のリスクが相対的に高く、債券のリスクが相対的に低いことから、前者をリスクオン、後者をリスクオフという。

5.2 長期金利動向を考えるための経済仮説

5.2.1 純粋期待仮説

 長期金利短期金利に現時点の情報で決まる将来時点での金利(=フォワードレート)が加算されて決定するという仮説を純粋期待仮説という。すなわち


\begin{aligned}
長期金利= 短期金利+ フォワードレート
\end{aligned}

5.2.2 流動性プレミアム仮説

 長期債権が短期債権に比較して長期間資金を固定化することにより流動性(=換金化可能性)が低いことに対してプレミアムが支払われるため、長期金利短期金利よりも大きくなるという仮説を流動性プレミアム仮説という。すなわち


\begin{aligned}
長期金利= 短期金利+ 流動性リスク
\end{aligned}

である。

5.2.3 市場分断仮説

 投資家や資金調達を行う企業などによって投資/調達期間の選好が異なるため、各残存期間の債券ごとに市場が分断、金利は各残存期間の債券の需給に応じて独立して決定されるという仮説を市場分断仮説という。

備考

用語

用語
意味・備考
クーポン 債券の利息のこと。債券の額面に対する年率(%)での記載が普通。日本では半年払(年2回)が太宗。
利払日 利息が支払われる日のこと。
満期 債券の分野では元本が償還される日のこと。最終償還日とも言う。
ソブリン債 公共債のこと。狭義には国家が発行した債券を指す。
ワラント債 新株予約権社債のこと。
CB(Convertible bond) 転換社債型新株予約権付社債のこと。
プライマリー市場 発行市場のこと。
セカンダリー市場 流通市場のこと。
玉(ぎょく)の調達 証券業者が、自身が在庫を用意する等、取引される債券を手当てすること。

経過利息

ある投資家Aが流通市場にて、投資家Xよりクーポン債を購入したとする。
このときの購入時点が前利払日−t^{\prime}\lt0から翌利払日t^{\prime\prime}\gt0の中間の時点(t=0)だった場合、t=t^{\prime\prime}にてAが受取るクーポンが利払期間に対するAの保有期間で割った分になるように、投資家Xへクーポン債費用を支払う際に併せて投資家Xの保有期間分の金利を支払う。このXに支払った金利経過利息という。

参考文献

*1:国債にはどのような種類がありますか? : 日本銀行 Bank of Japan参照。

*2:同上参照。

*3:厳密に言えば、東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法に基づく復興債もあるが、一時的なものであるため、ここでは記載を省略する。

*4:財政法 抄 | e-Gov法令検索参照。

*5:財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律 | e-Gov法令検索参照。

*6:特別会計に関する法律 | e-Gov法令検索参照。

*7:財政融資資金法 | e-Gov法令検索参照。

*8:https://www.mof.go.jp/pri/publication/research_paper_staff_report/staff18.pdf参照。

*9:米澤潤一(2013) 「国債膨張の戦後史」金融財政事情研究会 p.77参照。なお太線・下線は引用者による。

*10:「価格優先の原則」、「時間優先の原則」に基づく個別競争売買による付合せを行う。

*11:売買制度 | 日本取引所グループ参照。

*12:国債(JGB)先物 | 日本取引所グループ参照。

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