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金融工学でのモンテカルロ法(21/23):アメリカン・オプションの評価(6)ランダム・ツリーによる挟みうち法

 金融工学におけるシミュレーションについて学んでいく。テキストとして以下を使う。今回はP.136-145まで。


power-of-awareness.com

8. アメリカン・オプションのMonte Carlo法による評価

 アメリカン・オプションの価格は、有限差分法またはツリー法によるのが一般的であった。しかし\mathrm{Monte\ Carlo}法でも計算できるようになってきた。

8.7 ランダム・ツリーによる挟みうち法

 \mathrm{Broadie} \mathrm{and} \mathrm{Glasserman}により示されたランダム・ツリーによる挟みうち法は、正のバイアスを持つ推定量\mathrm{high} \mathrm{estimator})と負のバイアスを持つ推定量\mathrm{low} \mathrm{estimator})の2つを推定し、アメリカン・オプション価格の保守的な信頼区間を与える方法である。

8.7.1 ランダム・ツリー

 簡単のため原資産Sは1資産からなるとする。ランダム・ツリーはb個に枝分かれし、再結合しない構造を持つ。時点0から時点Tまでを


\begin{aligned}
0=t_0\lt t_1 \lt\cdots\lt t_j\lt\cdots\lt t_M=T
\end{aligned}

のように分割し、各ノードの原資産価格値を


\begin{aligned}
S_j^{i_1\cdots i_j},\ j=1,\cdots,M,\ i_k=1,\cdots,b,\ k=1,\cdots,j
\end{aligned}

と書くことにする。
 ランダム・ツリーによる挟みうち法では、枝先の原資産価格をランダムに与えることで1つのランダム・ツリーを構築し、これをn回繰り返すことで点推定値(オプション価格)および信頼区間を得る。このときの計算負荷は


\begin{aligned}
O[n(b+b^2+\cdots b^M)]
\end{aligned}

である。また原資産の数がA個(A\geq 1)だとすれば、このときは各ノードでb個の分岐をA回だけ繰り返してツリーを作るため、計算負荷は


\begin{aligned}
O[n(b+b^2+\cdots b^{AM})]
\end{aligned}

になる。

8.7.2 High estimator

 以下の条件下における\mathrm{high} \mathrm{estimator} \Thetaの算出方法を述べる。

  • h_j(s)を時点t_j、株価sにおけるペイオフ関数とする。
  • V_j(s)=E[e^{-r(t_{j+1}-t_j)}P_{j+1}(S_{j+1})|S_j=s]を時点t_j、株価sにおける持越し価値とする。
  • P_j(s)=\max[h_j(s),V_j(s)]を時点t_j、株価sにおけるオプション価値とする。
  • P_M(s)=h_M(s)を満期t_Mにおけるオプション価値とする。

 \mathrm{High} \mathrm{estimator} \Thetaでは持越し価値を分岐先におけるオプション価値の平均値で与える。


\begin{aligned}
\Theta_{j}^{i_1\cdots i_j}=\max[h_j(S_j^{i_1\cdots i_j}),V_j^{i_1\cdots i_j}(S_j^{i_1\cdots i_j})]
\end{aligned}

で与えられる。ただし


\begin{aligned}
V_j^{i_1\cdots i_j}(S_j^{i_1\cdots i_j})&=\displaystyle{\frac{1}{b}\sum_{i_{j+1}=1}^{b}e^{-r(t_{j+1}-t_j)}\Theta_{j+1}^{i_1\cdots i_ji_{j+1}}},\\
\Theta_M^{i_1\cdots i_M}&=h_M(S_{M}^{i_1\cdots i_M})
\end{aligned}

である。これを後進的に全ノードに対して定めていき、最終的に解\Theta_0=\Theta_0^{1}を得る。
 bは十分に大きく取ることができないため、1期先の状態には必ずバイアスが生じる。もし高い株価ばかりが発生したならば、オプションは持ち越される蓋然性が高い。このときバイアスの無い状態での持越しが最適であるか否かにかかわらず、オプション価格は理論値よりも高くなる。またもし低い株価ばかりが発生したならば、早期行使される蓋然性が高い。このとき、持ち越すべきオプションを早期行使するため、バイアスの無い状態での早期行使が最適ならばオプション価値は変わらず、持越しが最適であればいくらかオプション価値は低くなる。これらを踏まえると、\mathrm{High} \mathrm{estimator} \Thetaは理論値よりも高く算出されることになる。

8.7.3 Low estimator

 \mathrm{Low} \mathrm{estimator} \thetaは以下で定義する。k=1,\cdots,bについて


\begin{aligned}
\eta_{j}^{i_1\cdots i_j\cdot k}=\left\{
\begin{array}{ll}
h_j(S_j^{i_1\cdots i_j}), & h_j(S_j^{i_1\cdots i_j})\geq \displaystyle{\frac{1}{b-1}\sum_{i_{j+1}=1,i_{j+1}\neq k}^{b}e^{-r(t_{j+1}-t_j)}\theta_{j+1}^{i_1\cdots i_{j+1}}} \\
e^{-r(t_{j+1}-t_j)}\theta_{j+1}^{i_1\cdots i_j\cdot k}, & それ以外
\end{array}
\right.
\end{aligned}

とおく。ただし


\begin{aligned}
\theta_{j}^{i_1\cdots i_j}&=\displaystyle{\frac{1}{b}\sum_{k=1}^{b}\eta_{j}^{i_1\cdots i_j\cdot k}},\ j=1,\cdots,M-1\\
\theta_{M}^{i_1\cdots i_j}&=h_M(S_M^{i_1\cdots i_M})
\end{aligned}


とする。これを後進的に全ノードに対して定めていき、最終的に解\theta_0=\theta_0^{1}を得る。
 行使判断に利用される枝が持越し価値を決める枝よりも高い傾向がある場合、持越しが判断されやすいオプション価値は低い傾向にある枝の持越し価値に決定され、\thetaは大きな負のバイアスを持ちやすい。これに対して行使判断に使われる枝が持越し価値を決める枝よりも低い傾向にある場合、早期行使が判断されやすい。持ち越すべきオプションを早期行使するために、\thetaは負のバイアスを持つことになる。

8.7.4 推定値の性質

 \mathrm{Broadie} \mathrm{and} \mathrm{Glasserman}はすべてのbについて


\begin{aligned}
E[\theta_0(b)]\leq P_0(S_0)\leq E[\Theta_{0}(b)]
\end{aligned}

を示した。すなわちオプション価値は\mathrm{high} \mathrm{estimator}\mathrm{low} \mathrm{estimator}の期待値の間にある。
 またいくつかの条件下においてb\rightarrow\inftyのとき\Theta_0(b),\theta_0(b)\rightarrow P_0(S_0)が成り立つ。

8.7.5 挟みうち法

 bを増やすと推定量が真の値に近づくものの計算負荷が非常に大きくなる一方で、nを増やせば、解がE[\theta_0(b)],E[\Theta_0(b)]の間に入る確実性を高めることが出来る。
 第i回目のランダム・ツリーによるhigh estimator \Theta_0^{i}、low estimator \theta_0^{i}として、それぞれのサンプル標準偏差\sigma[\Theta_0(b,n)],\sigma[\theta_0(b,n)]とおく。また


\begin{aligned}
\bar{\Theta}(b,n)=\displaystyle{\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}\Theta_{0}^{i}(b)},\ \bar{\theta}(b,n)=\displaystyle{\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}\theta_{0}^{i}(b)}
\end{aligned}

とする。このときオプション価格の保守的な信頼区間


\begin{aligned}
[C_L,C_U]
\end{aligned}


\begin{aligned}
C_L&=\max\left[\max[S_0-K,0],\bar{\theta}(b,n)-z_{\alpha/2}\displaystyle{\frac{\sigma[\theta_0(b,n)]}{\sqrt{n}}}\right],\\
C_U&=\bar{\Theta}(b,n)+z_{\alpha/2}\displaystyle{\frac{\sigma[\Theta_0(b,n)]}{\sqrt{n}}}
\end{aligned}

により定義する。ここでz_{\alpha/2}は標準正規分布100\alpha\%点を表す。
 更に


\begin{aligned}
p_i=\displaystyle{\frac{\max[\max[S_0-K,0],\theta_0^i]+\Theta_0^i}{2}}
\end{aligned}

とすれば点推定値


\begin{aligned}
\hat{p}=\displaystyle{\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{n}p_i}
\end{aligned}

を便宜的なオプション価格と考えることが出来る。

(1) ランダム・ツリーを構成する。
(2) \Theta_0,\theta_0およびp_i=\displaystyle{\frac{\max[\max[S_0-K,0],\theta_0^i]+\Theta_0^i}{2}}を計算する。
(3) (1),(2)を繰り返してオプション価値の信頼区間を定める。また\hat{p}=\displaystyle{\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{n}p_i}を計算し、これをオプション価格とする。
8.7.6 計算負荷

 1資産のバミューダン・オプションでは、n=100,b=50,M=3として相対誤差が0.26%~4.36%であったが、このとき使用した乱数の数は100(50+50^2+50^3)=12,755,000個である。この方法の欠点は早期行使可能回数Mを大きく出来ないこと、原資産数Aを増やせないことである。

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