金融工学におけるシミュレーションについて学んでいく。テキストとして以下を使う。今回はP.136-145まで。
8. アメリカン・オプションのMonte Carlo法による評価
アメリカン・オプションの価格は、有限差分法またはツリー法によるのが一般的であった。しかし法でも計算できるようになってきた。
8.7 ランダム・ツリーによる挟みうち法
により示されたランダム・ツリーによる挟みうち法は、正のバイアスを持つ推定量( )と負のバイアスを持つ推定量( )の2つを推定し、アメリカン・オプション価格の保守的な信頼区間を与える方法である。
8.7.1 ランダム・ツリー
簡単のため原資産は1資産からなるとする。ランダム・ツリーは個に枝分かれし、再結合しない構造を持つ。時点から時点までを
のように分割し、各ノードの原資産価格値を
と書くことにする。
ランダム・ツリーによる挟みうち法では、枝先の原資産価格をランダムに与えることで1つのランダム・ツリーを構築し、これを回繰り返すことで点推定値(オプション価格)および信頼区間を得る。このときの計算負荷は
である。また原資産の数が個()だとすれば、このときは各ノードで個の分岐を回だけ繰り返してツリーを作るため、計算負荷は
になる。
8.7.2 High estimator
以下の条件下における の算出方法を述べる。
- を時点、株価におけるペイオフ関数とする。
- を時点、株価における持越し価値とする。
- を時点、株価におけるオプション価値とする。
- を満期におけるオプション価値とする。
では持越し価値を分岐先におけるオプション価値の平均値で与える。
で与えられる。ただし
である。これを後進的に全ノードに対して定めていき、最終的に解を得る。
は十分に大きく取ることができないため、1期先の状態には必ずバイアスが生じる。もし高い株価ばかりが発生したならば、オプションは持ち越される蓋然性が高い。このときバイアスの無い状態での持越しが最適であるか否かにかかわらず、オプション価格は理論値よりも高くなる。またもし低い株価ばかりが発生したならば、早期行使される蓋然性が高い。このとき、持ち越すべきオプションを早期行使するため、バイアスの無い状態での早期行使が最適ならばオプション価値は変わらず、持越しが最適であればいくらかオプション価値は低くなる。これらを踏まえると、 は理論値よりも高く算出されることになる。
8.7.3 Low estimator
は以下で定義する。について
とおく。ただし
とする。これを後進的に全ノードに対して定めていき、最終的に解を得る。
行使判断に利用される枝が持越し価値を決める枝よりも高い傾向がある場合、持越しが判断されやすいオプション価値は低い傾向にある枝の持越し価値に決定され、は大きな負のバイアスを持ちやすい。これに対して行使判断に使われる枝が持越し価値を決める枝よりも低い傾向にある場合、早期行使が判断されやすい。持ち越すべきオプションを早期行使するために、は負のバイアスを持つことになる。
8.7.4 推定値の性質
はすべてのについて
を示した。すなわちオプション価値は と の期待値の間にある。
またいくつかの条件下においてのときが成り立つ。
8.7.5 挟みうち法
を増やすと推定量が真の値に近づくものの計算負荷が非常に大きくなる一方で、を増やせば、解がの間に入る確実性を高めることが出来る。
第回目のランダム・ツリーによるhigh estimator 、low estimator として、それぞれのサンプル標準偏差をとおく。また
とする。このときオプション価格の保守的な信頼区間
を
により定義する。ここでは標準正規分布の点を表す。
更に
とすれば点推定値
を便宜的なオプション価格と考えることが出来る。
(1) | ランダム・ツリーを構成する。 |
(2) | およびを計算する。 |
(3) | (1),(2)を繰り返してオプション価値の信頼区間を定める。またを計算し、これをオプション価格とする。 |
8.7.6 計算負荷
1資産のバミューダン・オプションでは、として相対誤差が0.26%~4.36%であったが、このとき使用した乱数の数は個である。この方法の欠点は早期行使可能回数を大きく出来ないこと、原資産数を増やせないことである。