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【北朝鮮問題】アメリカと北朝鮮は何をネゴりたいのか?米機密解除文書が語る米朝問題(上)

 去る18日(米東部時間)、北朝鮮が異例の脅威であるとヘルビー米国防総省次官補代行が発言した*1。その2日前(16日(ソウル時間))に北朝鮮が開城にある南北共同連絡事務所を爆破したうえ、同国が「非武装地帯への兵力再配備に言及」*2したことを受けたものだ。
 こうした米朝関係の高まりは一昨年(2018年)に実施されたシンガポールにおける米朝首脳会談の開催に向けた推移を思い起こさせる。そうなるとするならば、「南北関係の緩和」が1つのアジェンダであることは明らかだが、他に論点が存在するのかが焦点となる。このようなタイミングで18日(米東部時間)急遽リリースされたのが「クリントン政権下における北朝鮮との交渉での新たな証跡(New Evidence on Clinton Administration Negotiations with North Korea)」であった。これは米ジョージ・ワシントン大学旗下にある国家安全保障文書館(National Security Archive)が公開したものである。
 この時宜に適った文書を読まないわけにはいかない。そこで今回公表されたかつての機密文書を読解して、これらがこのタイミングで公表された意味を考えていきたい。なお筆者の英語能力は低いので誤訳はご了承されたい。もしそういった部分があれば指摘いただけるならば幸いである。また分量が多いので、まずは概要を語る前篇(今回)と各文書を読解する後篇とに分けて公表する。

20日 15:00追記
 文書内容が多かったため、次回は中篇とし、全部で3部構成ということにさせて下さい。

1. はじめに ~国家安全保障文書館とは?~

(1) 国家安全保障文書館はどのような機関なのか

 本編に入る前にこの国家安全保障文書館(National Security Archive)について確認しておこう。同文書館は増大する米連邦政府による機密保持行為を監視すべくジャーナリストや学者が1985年に創設した機関で、さまざまな機能を誇っている*3

[I]nvestigative journalism center, research institute on international affairs, library and archive of declassified U.S. documents ("the world's largest nongovernmental collection" according to the Los Angeles Times), leading non-profit user of the U.S. Freedom of Information Act, public interest law firm defending and expanding public access to government information, global advocate of open government, and indexer and publisher of former secrets

すなわち自分たちが以下のような様々な側面を有していると述べている:

  • 調査報道センター
  • 国際情勢に関する調査機関
  • 米国の機密解除文書を保管する図書館および公記録保管所
  • 連邦政府情報公開法の主導的な非営利ユーザー
  • 政府情報への公的なアクセス権を守り拡充する公益法律事務所
  • 開かれた政府のグローバル規模での提唱者
  • かつての機密について索引を記録し出版する機関

このような機関であり公的機関ではない。

(2) 情報公開とは

 同文書館は米連邦政府情報公開法(FOIA)に基づき米連邦政府に機密文書の公開を請求して得られた文書を分析している。
同法は情報公開のプロセスについてこう定めている*4

連邦政府の庁、局、部課などの各行政機関(以下、「エージェンシー」という)では、情報公開室(FOI Office)を設置して FOIA を運用するとともに、ウェブサイトで情報提供をしている。FOIA には9つの適用除外事由があり、それらに該当する場合には情報を公開しないことができる。FOIA を利用した情報公開請求は、必要事項を記載した書面にて行われるが、各エージェンシーは情報公開請求を受理してから原則として20
就業日以内に回答しなければならない。エージェンシーが書面によって開示請求された情報の全部または一部の公開を拒否する場合、または20 就業日以内に回答されない場合には、請求者はエージェンシーの不服審査担当者(FOI Appeals Officer)に対しての苦情申し立てや訴訟を提起することができる。

適用除外事由とは以下のとおりである*5

①機密事項や国防、外交政策に関するもの。国防や外交政策
 関わる国家安全情報はFOIA の適用除外事由に該当し開示
 されない。ただし、それは大統領命令により定められた
 基準に基づき正当に機密扱いとされた情報である場合に
 限られる。
②行政機関内部の人事に関する規則や慣例に関するもの。
③他の制定法で具体的に開示が免除されているもの。ただし、
 その制定法は、
 (a)当該事項の非公開措置を裁量の余地なく
    要求しているもの、または、
 (b)非公開措置についての特別の基準を設け、
    もしくは非公開措置が取られなければならない
    特別な種類の事項についての定めがあるものに
    限られる。
④営業上の秘密事項、及び第三者から得られたもので、
 秘匿権が認められまたは秘密に属する商業上または
 金融上の情報。
⑤行政機関との訴訟で行政機関以外の当事者には、
 法律により利用することができない行政機関相互間
 または行政機関内部の覚書もしくは書簡。
⑥開示すれば、個人のプライバシーに対する明らかに
 不当な侵害になる人事及び医療に関する書類、
 その他これに類する書類。
⑦法執行の目的のために編集された捜査記録。ただし、
 これは専ら次の場合に限られる。法執行記録または
 情報の提出が、
 (a)法執行手続を妨害すると合理的に予期されうる
    場合
 (b)公平な裁判または公平な裁決を受ける権利を
    奪う場合
 (c)個人のプライバシーに対する不当な侵害になると
    合理的に予期されうる場合
 (d)秘密の約束の下に情報を提供した、州、地方または
    外国の機関若しくは当局または私的機関を含む、
    秘密の情報源を開示することになると合理的に
    予期されうる場合、及び刑事法執行当局の刑事上の
    取り調べ過程によってまたは適法な国家安全保障
    情報の 調査を行う機関によって編集された記録
    若しくは情報にあっては、秘密の情報源によって
    提供される情報を開示することになると合理的に
    予期されうる場合
 (e)法執行の取り調べ若しくは訴追のための技術及び
    手続を開示する場合、または法執行の取り調べ
    若しくは訴追のための指針を開示する場合
    であって、開示することによって、法の抜け道を
    見つける危険があると合理的に予期される場合
 (f)いかなる個人の生命または身体の安全をも危険に
    さらすことが合理的に予期されうる場合
⑧金融機関の規制若しくは監督について責任を負う
 行政機関により、またはその行政機関に代わり、
 もしくはその行政機関の利用に供するために準備された
 検査、運営若しくは状況に関する報告に含まれまたは
 関係があるもの。
⑨油井に関する地図を含む、地質学及び地球物理学上の
 情報やデータ。

2. 何が書かれているのか?

(1) 文書の前提となる経緯

 さて読解に入ろう、と言いたいところだが、その前に周辺情報を洗っておきたい。つまり米朝関係がどういった経緯を辿ってきたのかということである。
 今回の機密解除文書群はクリントン政権(第2期)における対北朝鮮外交の遷移をまとめたものであり、過去(2017年12月8日(米東部時間))に投稿された「魅惑的な北朝鮮クリントン政権の証跡から(Engaging North Korea II: Evidence from the Clinton Administration)」の続報という位置づけにある。去る1994年に「米朝枠組み合意」として締結された米朝関係の正常化プロセスを通じて米韓両国が北朝鮮に対して如何なる心情を有していたのかという点がミソである*6

[T]he materials provide detailed insights into Pyongyang’s motivations, intentions, and negotiating styles, how Washington and Seoul perceived the threats from the North as well as the opportunities arising from the Agreed Framework, and the myriad issues that encumbered the negotiating process.

 北朝鮮は1985年に核拡散防止条約(NPT)へ加入し、91年には朝鮮半島非核化共同宣言により核兵器に加え核濃縮、再処理施設も持たないと約束したのだった*7。しかし93年、北朝鮮が申告したプルトニウム量に国際原子力機関IAEA)が疑問を呈し、未申告の施設に対する特別査察を要求すると、北朝鮮は同年3月12日、NPT脱退を宣言した。これに対してブッシュ(シニア)政権(当時)やそれに続くクリントン政権が制裁を行う方向で(後者に至っては戦争すら選択肢にあった)対応していたのが、カーター元大統領の訪朝から「米朝枠組み合意」へと至ったのだった。
 本筋から少しズレるが、この合意への交渉に決着を付けた直後に金日成が死去し、金正日への権力交代が生じたのだという点をここでは指摘したい。

(3) 文書の構成

 本筋に入る前にもう少し文書群について説明しておく。今回公表された機密解除文書は全部で16通ある。これらは大きく2つに分類することができる:

They fall into two groups: the talks leading to the 1994 Agreed Framework to halt North Korea’s nuclear program, and the follow-on efforts in 1998-2000 relating to missiles

特に9通が1994年当時の「米朝枠組み合意」に関係する文書であり、残り7通が1998年の北朝鮮によるミサイル実験に関連する同年から2000年にかけての努力に関するものである。
 前者は「外交努力に当たって米国が直面していた2つの困難について強調するもの」で、その困難とは(1) 金泳三・韓国大統領(当時・在任1993年 ~1998年)が北朝鮮に対して有している深い不信であり、(2) 『米朝枠組み合意』の役割として軽水炉北朝鮮に提供することに対するロシアの関心を如何に逸らせるかであった*8
 金大統領はクリントン大統領に対して度々、北朝鮮を信用することの危険性を警告しており、また強調しておきたいのが、同大統領がこの枠組みにおいて「日本を排除」することを顧慮していたという点である*9

Kim Young Sam was also apparently an obstacle to close trilateral policy coordination between the U.S., South Korea and Japan on North Korea, given U.S. Ambassador to Japan Stephen Bosworth’s comment that the South Korean leader’s “neuralgia” toward Japan made “tripartite thinking hard for him.”

他方でこの「米朝枠組み合意」を説明するにあたり、米外交は「ロシア製軽水炉」の提供に向けたロシアからの攻勢を躱すべく努力せざるを得なかったのだという。
 これに対して後者、すなわち1998年から2000年にかけて発行された7つの文書は、当時の外交当局が直面していたさまざまな観点に如何に対応しなければならなかったのかを示しているという。

The second group of documents dating from 1998 to 2000 shows how U.S. diplomacy had to deal with a different set of views toward engagement with North Korea expressed by South Korean president Kim Dae Jung; secure Congressional support for the new course in North Korea policy laid out by the Perry report; and assess the new perspective on North Korea provided by Secretary Albright’s visit to Pyongyang.

つまり、「(1)金大中・韓国大統領(当時・在任:1998年~2003年)による北朝鮮への対応方針」、「(2) 1994年来の対北朝鮮政策について根本的な見直しを要求する、米国務省のペリー国防長官(当時。日本史で有名なペリー提督は5代前の伯父)を中心として発行された「ペリー報告」*10を受けて新たな北朝鮮政策の策定を支援する連邦議会」と「現職閣僚として史上はじめて北朝鮮を訪問したオルブライト国務長官(当時)がもたらした北朝鮮に対する新たな見方への評価」という3つへの対応を迫られていたのだ。
 このペリー報告について少し補足しておくと、「挑発的な不測の事態(provocative contingency)」の発生は想起しつつも、相手の出方次第では現況の経済制裁の見直し(すなわち緩和)をも考慮すべきとしている。その主要な結論をこうまとめている*11

  1. 北朝鮮による核兵器の獲得、長距離ミサイルの開発、実験、配備および輸出の継続は、長期的視野での冷戦の終結と恒久和平の追求の前提条件である朝鮮半島における抑止力の相対的安定性を崩す。また、北朝鮮によるこうした活動は、地域的および世界的に米国の死活的な国益に反する深刻な結果をもたらす。したがって米国はこうした活動を中止させることを目標としなければならない。
  2. 朝鮮半島において再び戦争が勃発した場合、米国と同盟国は、迅速かつ確実に勝利を収めることができるが、その際の人的被害・物的損害は、近年の米国の経験をはるかに超えるものになる。米国は、北朝鮮核兵器弾道ミサイルに関する目標を追求するに当たり、抑止力を弱めたり北朝鮮による判断ミスの可能性を増すような行動を控える必要がある。
  3. 北朝鮮核兵器と長距離ミサイル関連活動を協力的な形で終結させることを通じて安定を確保することができる場合、米国は北朝鮮とより正常な外交関係を樹立し、韓国の関与・平和的共存政策に加わる用意を持つべきである。
  4. 北朝鮮にとって、寧辺の施設の凍結を解除することが、核兵器を獲得する最も迅速で確実な道である。したがって、米国と同盟国は、核枠組み合意を維持し実施すべきである。核枠組み合意によって、寧辺における北朝鮮プルトニウム生産能力は検証可能な形で凍結されている。しかし、核枠組み合意がなければ、北朝鮮は相当数の核兵器を毎年製造するための十分なプルトニウムの再処理できると推定される。すべての核兵器関連活動を検証可能な形で凍結していない、また弾道ミサイルには適用されないといった核枠組み合意の限界に対処するには、核枠組み合意を(新たなものと)代替するのではなく、補足することが最良の方法である。
  5. 北朝鮮に対する米国のいかなる政策も、韓国と日本によるそうしうた政策への積極的な支持や実施への協力がなければ成功しえない。この3カ国の利害は同一ではないもののかなりの部分で明確に重なるため、そのような3国間協調を確保することは可能なはずである。
  6. 現状に伴うリスク、そして北朝鮮の孤立、疑念、交渉スタイルに鑑みて、米国の対北朝鮮政策を成功させるには、挑発を受けても冷静さと忍耐を失わないことが必要となる。現在採用されているアプローチは、現政権の任期以降も将来にわたって維持されなければならない。したがって、政策とその実施の継続については、議会から可能な限り広範な支持と継続的な関与を得ることが不可欠である。

 この結論の中でも2と3、そして6が重要であるというのが筆者の見解である。つまりこの報告は北朝鮮の脅威が相当のものであることを認識したうえで圧力を掛けるといった強硬策を避けて慎重な対応を行うこと、また正常な外交関係の樹立すらゴールとして見据えるべきであること、さらにはそのために議会からの支援を得なければならないとしているのだ。
 オルブライト国務長官(当時)もこうした立場を支持していた*12

Albright made a similar comment to Clinton in an August 1999 memorandum recommending that he engage in personal diplomacy with Congress to secure its support for the policies laid out in the Perry Report, particularly the easing of sanctions if North Korea took specific steps to rein in its missile program and exports.

以上が今回の読解のために踏まえるべき前提である。後篇では一つ一つの文書を読み込んでいくことにしよう。

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註:サムネイル画像はhttps://nsarchive.gwu.edu/briefing-book/nuclear-vault/korea/2020-06-16/new-evidence-clinton-negotiations-north-koreaから引用した

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