目次
1. 計量経済学とは
計量経済学とは、
計測を通じて経済変数間の関係を支配するメカニズムを経済理論とデータに基づき解明していく方法
である。
以下の手順で議論していく:
1. | 仮説・経済理論の提示 |
---|---|
2. | データの収集 |
3. | 計量経済モデルの定式化 |
4. | モデルの推定 |
5. | 仮説検定、適合度の検証 |
6. | 予測 |
7. | 政策手段の選択・意思決定への利用 |
1.2 データの収集
を計測する尺度を数値化する。分析目的に応じて、時系列データ(時間を追って収集したデータ)と横断面データ(クロスセクションデータ:一時点で多数の観測地を集めたデータ)を使用するのか、また分析方法が変わってくる。
1.3 計量経済モデルの定式化
関数としてどのような形態を想定するか。最も簡単なのは、
としての一次式
である。ここでは定数である。
このようなモデル形状が「正しい」かは、理論と実際のデータがどれだけ整合的か検証するかは不明である。また厳密に当該モデルが当てはまるとは限らない。
とはいえ、“大雑把に”データを説明するには有用と言える、すなわち平均的な傾向を表すには有用と考えられる。これを明確に書き下すと、
と書ける。ここでは
と条件付き期待値との差を表し、攪乱項という。
他には、たとえば、説明変数の単位変動に対する目的変数の増加率(弾力性)を一定としたモデル
が考えられる。これは、両辺の自然対数を取ることで、
と前述のモデルに帰着できる。
1.4 モデルの推定
計量経済モデルの特性はにより表され、これらはモデルのパラメータと呼ばれる。パラメータは実際のデータから推定する。
1.5 仮説検定、適合度の検証
推定結果が理論モデルと整合的かどうかを検証するのに、統計的仮説検定により、誤差を勘案しつつ結論を出す。
1.6 予測
推定結果からの予測ができる。ただし、予測値は点予測値であり、パラメータの推定誤差および攪乱要因(
)に基づく誤差が内包され得る。
1.7 政策手段の選択・意思決定への利用
もしがマクロ経済変数であったり、
が政策手段であったりする場合、政策当局は
を操作することで
を操作でき得る。また特定の政策が経済に与える影響を予測し、最良な選択肢を選ぶことができ得る。
2. 回帰モデルの基礎
2.1 条件付き期待値と直線の当てはめ
独立変数とその従属変数
を考えるとき、計量経済学における興味の1つが
が与えられたときの平均的な
の値である。この平均的な値を条件付き期待値
という。条件付き期待値は
の関数
と見なすことができる。そのため、母集団回帰関数とも呼ばれる。
データ数をとすれば、母集団回帰関数と各データ
は、
と書ける。
母集団回帰関数の形状は厳密な線形関数でないことがほとんどである。しかし未知の母集団回帰関数を推測する際の出発点として、簡素な形状を仮定することが多い。目下、
だと仮定し、
と書けるものとして分析していく。
2.2 標本回帰関数
標本から母集団回帰関数を推定したものを標本回帰関数という。標本から標本回帰関数を推計する(パラメータを推定する)手続きを回帰という。
2.3 最小二乗法
回帰に当たり、どのようにパラメータを推定するか。さまざまな考え方があり得るが、少なくとも客観的な基準の下で推定すべきである。ひとつの考え方は、全体的な誤差を小さくすることである。
当てはめの誤差は残差と呼ばれ、標本回帰関数を
とおけば、
と表せる。全体的な誤差を小さくすることは、と翻訳できる。とはいえ、これは数学的に扱いづらく、あまり用いられない。
代わりに、最小二乗基準による推定が用いられる。残差を用いて残差二乗和を
で定義し、この残差二乗和を最小化することを考える。残差二乗和はの関数であり、これらの2次関数である。そこで、残差二乗和を両変数で偏微分したものを
とした方程式を連立させることで求めることができる。すなわち、
を解けばよい。
まず1つ目の方程式を整理することで、
を得る。ここで、,
とおいた。
2つ目の方程式を整理した後にこれを代入することで、
を得る。ここに、
より、,
を両辺に加えることで、
が得られる。の分母は
の標本分散であり、分子は
の標本共分散である。これらをそれぞれ
と書くことで、
である。これら最小二乗法で得たを
の最小二乗推定量という。
2.3.1 回帰直線の性質
標本回帰関数による予測値
を回帰直線と呼ぶ。であり、
であるから、
- 回帰直線は
を通る
- 傾き
の符号は標本共分散
の符号に一致する
という性質を持つ。
2.4 当てはまりの尺度、決定係数・重相関係数
回帰により説明変数が従属変数
をどの程度説明するかを測る指標を考える。
もしが完全に説明される場合、すべての残差
は
である。逆にまったく説明できない場合、当てはめ値が常に
の標本平均になる。
2.4.1
の総変動
従属変数の平均からの乖離の二乗和を
の総変動
という。
である。ここで、
を用いた。すなわち、総変動は残差二乗和と説明変数
によって説明された変動
の和に分解される。
2.4.2
の計算
は簡単に計算できる。
から、
が得られる。または
から
を引けばよい。
2.4.3 決定係数
以上を踏まえて、回帰の当てはまり度合いを表す指標として、決定係数を導入する。決定係数
は、
で定義する。はいずれも非負であるから、
は
から
の間の値を取る。